'05年09月10日(土)

フィリピンが舞台の小説

最近読んだ「虹の谷の5月」

9月に入ってもまだ暑いようですが、一応読書の秋ですね。エドは読書自体も好きですが、旅行に行く前・行った後に、その訪れた土地が舞台になっている映画を見たり、本を読むのは特に好き。旅行前ならますます行ってみたくなったり、旅行後なら訪れた場所が思い出されたりしてまた楽しめます。でもあんまり事前に見すぎるのも考えもの?というのは、ブラウン管の中でいつも見ていたためなのか、ロサンゼルスの空港からダウンタウンに車で向かった時に感じたのは、いつもの通いなれた道を運転しているような既視感。生まれて初めて来た場所なのに、全然そう思えませんでした。

でもアメリカの情報はテレビも映画もエドが既視感を覚えるほどあったけど、日本ではアジア関連の情報や映像は香港のカンフー映画とか最近の韓国ドラマブームまであまり見ることがなかったような気がします。今から10年以上前、プサンや上海を初めて訪れたときに見たのはこれまで見たことのない町並み・光景、距離はLAよりずっと近いのにとても遠い異国に来た気がしました。

日本ではただでさえ欧米よりアジアの情報が少ないのに、その中でもフィリピンはメディアへの露出度が低いのではと思います。日本人が犯罪に巻き込まれるとかクーデターとかでも起きないとニュースにならないし、フィリピンロケのテレビや映画はほんの少し。小説も同じで、フィリピンやマニラが舞台になったものはそれほど多くないようです。

マニラに赴任する前は、バタバタしていたこともあり赴任ガイドブックのような本しか読めませんでした。あとは「課長島耕作フィリピン赴任編貸してあげるよ」と貸してもらって読んだくらい。フィリピンが舞台になった小説も読んでみたいなあ、と思っていたのですが、こちらに来てからだとマニラに日本の本を扱う書店がないのでなかなかそれが出来ないのは前にも書いたとおり。まにら新聞の図書館や日本人会の図書館には比較的フィリピン・マニラ関連の本・小説などもおいてあるのですが、前者は貸し出しをしていないし、後者は「働いている人は来ないでね」といわんばかりの営業時間なので全然行く機会がありません。

オンライン書店で買って送ってもらおうにも、ガイドブック類ならタイトルに「フィリピン」とか「マニラ」と大体入っているので検索して探しやすいのですが、小説だと舞台がフィリピンでもタイトルにはマニラとかフィリピンと入ることが少ないので探すのも大変。舞台がフィリピンだということをあらかじめ知らないと探せません。それに有名作家の本ならともかく、すでに絶版になってる本も多いようで、オンラインの本屋で注文してすぐ買えるものは多くないようです。今回夏休みで帰った人に買ってきてもらったこの「虹の谷の五月」は船戸与一氏の直木賞受賞作なのでさすがにどこでも在庫がありました。

この本の舞台は数年前のセブ島ですが、最寄の街まで歩いて3時間の電気もない山奥の村が舞台。腐りきったバランガイキャプテンや警察署長、村人から革命税を徴収する新人民軍、祖父と一緒に暮らすジャピーノ(日比混血)の少年、そして虹の谷で一人で戦い続ける元新人民軍のホセ。日本で読んだらちょっと荒唐無稽に思える設定も、フィリピンに住んでいるともしかしたらそうなのかも?と思えます。

ミンダナオの空をテロリストキャンプを探す米軍の無人偵察機が飛び、反政府勢力との戦闘では空爆まで行われている国。大統領からから州知事、市町村長、バランガイキャプテンにいたるまで、権力者には疑惑が付きまとい、それを報じたジャーナリストや告発した人が暗殺されたりすることが珍しくないフィリピン。携帯電話会社Globeの基地局が革命税を払わないために新人民軍に壊されたのも、日系企業の工場も多いサンタロサで市長が白昼市庁舎で撃たれて死亡したのも、最近のニュース。エドの家の大家は華僑ですが、奥さんが子供の誘拐を恐れていてシンガポールに引っ越しました。もしかすると今この国で起こっていることは、事実は小説よりも奇なり、というところなのかもしれません。

フィリピンを舞台にした小説などで多いのは、「虹の谷の五月」に限らずこの土地柄(?)を生かした日本国内の設定だとちょっと荒唐無稽になってしまう冒険活劇系の小説。ほかには大岡昇平などの戦記ものや、商社マンの活躍を描いたもの、フィリピーナと結婚した男性の話といったあたりでしょうか。

エドが書評などで探してみたフィリピンが舞台の小説などで今でも通販で買えるのは下のリストのとおり。多分他にも沢山あると思いますが、皆様もご存知でしたら教えてください。また直木賞でも受賞していればともかくもう絶版で買えない本も多いので本屋で探すより図書館や古本屋などで探したほうが見つかるかもしれませんね。読書の秋にぜひどうぞ。


取締役でも部長でもない 「課長島耕作(5)新装版」 「課長島耕作(6)新装版」 弘兼憲史
1982年直木賞受賞作 「炎熱商人(上)」  「炎熱商人(下)」 深田祐介
2000年直木賞受賞作の 「虹の谷の五月(上)」 「虹の谷の五月(下)」 船戸与一
「取引」  著者は「ホワイトアウト」の真保裕一
「マリア・プロジェクト」  著者は「Cの福音」の楡周平
著者のフィリピンのでの医療体験を基に書かれた 「灼熱の病棟エマージェンシー・コール」  太田靖之
カンボジアが舞台の『P.I.P.』に続く第2作  「D.O.D.ダイス・オア・ダイ」  沢井鯨
「マニラ・パラダイス」  内山安雄

'05年09月10日(土)



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